さて、昨日アカデミー賞受賞のポン監督についてお話をしました。ポン監督の記事は昨日の記事を参考にしてください。今日はポン監督ではなく、
ポン監督の立役者についての話です。
ポン監督といつも同行し、スピーチやインタビューの際に常に横で通訳をしていた人物。その名もシャロンチョイ氏に今や称賛の声があがっています。
ユーチューブなどではポン監督と同じくらい話題が沸騰していますね。
今では彼女がいたから、ポン監督はアカデミー賞をとれたんだ、というほどの賞賛の声があるのです。彼女は今回通訳の魅力を全世界に伝えたのではないでしょうか。
彼女の通訳は見る人にも感動させたのですが、なんとポン監督自身も、彼女がいて言葉の障壁がなくなったとほめたたえるほどなのです。
どこにポイントがあるのか、通訳の経験者がみた、彼女のすごさを今日は述べてみたいと思います。
1.シャロン・チョイ氏について
彼女は専門の通訳者ではなく、フィルムメーカーが本業です。
韓国の高校、外国語高校をでて、映画を学びに渡米しました。
外国語学校とは韓国でも外国語が堪能なエリートが通い、外国語を専門とするいわばエリート養成するところです。
ここで彼女が専門が通訳ではないところがすごいですね。彼女は通訳家ではないのです。ポン監督が注目したのはそこなのではないか。
ポン監督も彼女のフィルムメーカーという点に一目を置いて、一緒に巡回したのではないでしょうか。
ポン監督の人を見る目がそこにも表れています。人を見る目、先を読む鋭い感性があるのです。
彼女はともて謙遜でいて、かつスマートな側面もあることがわかります。もしかしたら、語学の上達はそんな側面も必要だったりするのでしょうか。
2.称賛のコメントが降り注ぐ
世界は彼女に対する称賛の声がやみません。コメントは以下のようなものがあります。
“発音がはっきりしていて、ともて落ち着いている。“
“完璧な通訳者だ。“
“彼女はとても謙遜だ。”
“2倍ぐらい通訳料をもらったらいい。”
“通訳が詰まることなく、スピーディーだ。”
“集中力がある。”
などです。実際アジア人に対してポン監督やシャロン氏に称賛の嵐を送ることは今までなかったことかもしれません。米国の国民は本心でかれらを栄誉への道へ招待しているのです。
いったいどこにそのような魅力をかんじたのでしょうか。これは、実力というよりも不思議な魔術、魅力に捕らわれたともいえそうです。なぜならば、言葉の障壁は必ずあるからです。通訳を介してでもです。これは、通訳をしている人がよくわかる現実なのではないでしょうか。
実はポン監督も彼女の魅力に捕らわれていました。
ポン監督も彼女を完璧な通訳者だとほめたたえます。そして、ありがとうと授賞式で彼女にむかってお礼をいうほどでした。二人のコンビは息が合っているという感じです。
3.シャロン・チョイのすばらしい点。3つ!
1)リズム感がある。
ポン監督が話すと同時にメモを見ずに、すぐさま通訳にはいる。このスピード感は聞いている人を魅了したと思います。
ポン監督の言いたいことをすぐさま、聞ける。
韓国語でいっているので聴衆はわからない。はやくその意味を知りたい。その思いをすぐさま、彼女の通訳でかなえてくれたのです。
ポン監督の一言一言が意味のある言葉です。
さらに、監督はとてもユーモア感覚があるので、それも聞きたくなるのでしょう。そのユーモアをわかりやすく伝えたことも受賞を大きく前進させたといったも過言ではないのです。
アメリカ全土はそんな二人のコンビに魅了されたのです。
2)真面目なところと茶目っ気な部分を見事に通訳
韓国の人の通訳をしていると、おもしろいのは、とてもまじめに話している傍らで、冗談も交えてはなすのです。
そのセンスをくみ取り、じょうずに伝えることが必要です。
通訳をしてもらいたい側は、冗談の部分も伝えて細かいニュアンスまでわかってほしいと思うのです。
シャロン氏はそれを見事に成功させたと思います。
しかも、表現力の豊かな韓国語です。
英語に直すには、それと完全にマッチする言葉を選ぶのは苦心します。
ポン監督は映画にもその言葉の障壁が崩れてくれたらいいのにと抱負を述べました。
その願いを、見事実現したのが、シャロン氏の通訳であったと思います。ポン監督の願いを実現してくれた人、それがシャロン氏ではなかったでしょうか。
3)一体となる。以心伝心力
コメントにもありましたが、彼女の謙遜さにみなひかれているようです。
通訳は自分の言葉をはなしません。
話し手の意思をくみ取り、完全に一体となることが求められます。
シャロン氏はいつもメモをしながらも、ポン監督の表情までも見ていました。
これは、表情、言葉にならないところの部分までも注視していたのでしょう。
以心伝心。まさに、通訳の醍醐味はここにあると思います。
この境地にたどりつけるか。
しかし、韓国の人はそれでいて、とても個性的です。ある面自分が強く、自尊心も旺盛です。
自分を失くし、謙遜にといって、黒幕に徹していないのです。
つまり、通訳するときは、堂々と、聴衆の前で、自らの通訳者のパフォーマンスを演じているのです。
彼女が専門の通訳ではなく、フィルムメーカーを専攻していたこととつながるのではないでしょうか。
そうです。彼女もアカデミー賞受賞式という舞台で演じていたのです。
これはすごいことだと思いませんか?
私は韓国人だからなし得た業(わざ)ではないかと思いました。
彼女も演じていた。だから、コメントにも彼女にアカデミー賞を。というものが送られたのでしょう。そのくらい彼女に注目が浴びているのです。
これを韓国の文化をもとに解説すると、一言で、
韓国語のモシダ모시다という言葉であらわすことができます。
モシダとは何か?
ある人(ここではポン監督)に仕えながらも、より深く相手の気持ちを悟って、自ら進んでその人に侍るといった感じです。
日本の武士道とはちょっと異なるかもしれません。
無条件人にこびへつらうのではないのです。
自らも進んで、その人にアクションしていくのです。
たとえば、目上の人に言われるまえに、気が付いてその人のほっしていることを察知しながら、もてなすといった感じでしょうか。
シャロン氏はこのモシダという言葉を実践しているようでなりませんでした。
単なる英語の実力だけではなく、通訳を通してモシダを実践している。これをまっさきに感じました。
ポン監督の意思を伝達しながら、自らも進んで頭の中で考えつつ、それを組み立てて、聴衆につなげていく、橋渡しになりました。
それが、多くの人を感動させた、姿だったのでしょう。
まさに、通訳も韓国流に注目していくときがきたのでしょうか。
いや、韓国人は通訳に向いているのかもしれません。
通訳は話されることばを忠実にしつつ、自らの思考や語彙を駆使して、再度表現していく営みに他ならないのでしょう。
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